うずまきたびおの英語見聞録

うずまきたびおが実践してきた英語教材、英語に関する経験の軌跡

【書評】社内通訳の仕事を垣間見る

書名: 英語屋さん---ソニー創業者・井深大に仕えた四年半

著者: 浦出善文

 

 

英語屋さん―ソニー創業者・井深大に仕えた四年半 (集英社新書)

英語屋さん―ソニー創業者・井深大に仕えた四年半 (集英社新書)

 

 

購入の経緯:

所謂社内通訳の仕事内容について触れてそうだと思ったから購入してみた。

これも古本で100円でした。

 

内容:

著者は1961年生まれ、大学卒業後SONYへ入社し、2年目(1986年)のとき(25歳)に、社長の通訳兼カバン持ちに抜擢されたところから話が始まる。

帰国子女でもなく、留学経験はないということらしい。

ただし、学生時代に英検一級を取得し、ESSクラブに在籍していたという経歴の持ち主であり、英語力の実力は十分あったと推察する。

 

現代と比較すると、時代背景が若干違いすぎる感は否めない。しかし、サラリーマンのやる仕事なんて時代が変わっても本質は変わらないと思っているので、本質的な部分を理解できれば良いと思う。

 

社長通訳兼カバン持ちとしての4年半を描いた文章を通じて、社内通訳に携わる上でのヒントがちりばめられていると思う。

いくつか頭に残った部分を紹介しよう。

P. 43より引用

本当に英語でコミュニケーションする能力を身につけたかったら、何よりもまず「自分の話したいこと(話す必要があること)に限って教材を選び、それを集中的に練習することだ。

(中略)

英語によるコミュニケーション能力を習得したい人が学ぶべきことは、学問や教養としての英語(学)ではなくて、「自分の言いたいことを英語でどう伝えるか」という方法であり、技術なのである。

 

P.45 予習が肝心 より引用

通訳の前には、相手についての「予習」もよくやった。

来訪する相手のことは、会社の図書室にあった紳士録などで、相手の経歴や肩書きなどをあらかじめ調べておく。相手に著者がある場合は、その本を探してきてはひたすら読みまくった。こうすることによって、その相手が自分のことや自分の関心事に言及しても、通訳にあたるこちらも「ははあ、あれのことだな」とピンときて、落ち着いて対処することができる。

 

P.49 通訳を使う側のコツ より引用

話し手は、ゆっくりと、わかりやすい言葉ではなしてほしい。

それから、話を区切る単位について (中略) 理想的には、1段落(文にして、2,3~5,6個)くらいまとめて話してから通訳させてもらえるとありがたい。

(中略)

良い通訳をするために「予習」は不可欠である。これはプロもアマも同じことだ。

(中略)

通訳が予習できるような準備資料や参考資料があれば、それを渡しておくか、その資料の入手先を教えてあげるという配慮をしてもらえると、通訳にあたる側でも怠りなく準備ができるし、従ってよい仕事ができる。

 

P.98

コミュニケーションのヘルパーとしての「英語屋」は、ただ機械的に通訳や翻訳ができるというだけでは、不十分で、それ以上に、仕事を通して相手との信頼関係を作ることが大切なのだ。

 

P.123

別に「話し言葉」にこだわる必要はないのである。自分の会話能力を見極めた上で、それに見合ったコミュニケーション手段を選べばいい。

 

P. 200 コミュニケーションの優劣を決めるもの より引用

自戒の意味も込めていえば、平均的な日本人はコミュニケーションがまだまだ下手だ。それは「英語が流暢に話せない」などという単純な問題ではない。話すべき内容や主張がない、話していることが論理的でない、コミュニケーション上の気配りひとつできないといった、もっと根本的な問題なのである。気の利いた英語の言い回しをひとつ、ふたつ知っているかどうかなど、所詮は末節の問題に過ぎない。

(中略)

新時代を切り開くアイディアや構想を、正しく円滑に伝達することのできるコミュニケーション能力を持つ人材が、これほど必要とされる時代はない。

 

この本のエッセイの内容は、1996~99年の間雑誌に掲載されていた記事が基だということである。しかし、この時代から”コミュ力”という言葉が使われていたことに驚愕した。

 

 昔からコミュ力至上主義は存在したのかと思うと涙が出てくる。

 

話を戻そう。

社内通訳業務に関して興味がある人は読んでみたらいかがだろうか。

SONYという大企業の業務のダイナミックさや雰囲気は面白いものだと思うし、著者が四苦八苦しながら通訳業務を身につけていく道程は英語学習の励みになる部分もあると思う。

 

 

 

おしまい