うずまきたびおの英語見聞録

うずまきたびおが実践してきた英語教材、英語に関する経験の軌跡

【書評】英文翻訳の奥深さについて

書名: 英文翻訳術 

著者: 安西徹雄

 

英文翻訳術 (ちくま学芸文庫)

英文翻訳術 (ちくま学芸文庫)

 

 

問題集レビューに関しても、ほぼ記事にしてしまったので英語に関連する本の書評をいくつか投稿しようと思う。

 

この本を購入した経緯は、「TOEIC900点も越えたし、翻訳にチャレンジしてみようかな」と思ってアマゾンで手に入れた。しかし、この本を読んで、”一つの言語を極めることの奥深さ・難しさ”を改めて実感した。

 

【内容】

P.11 はしがきより引用

最近、翻訳を勉強したいと言う人々が、非常にふえているようだ。

(中略)

翻訳志願者の人たちと一緒に勉強しているのだけれども、そこでいつも悩んでいたことが一つあった。翻訳のノウハウを伝えるのに、適当なシステム、組織化の方法がなかなか見つからないということである。

 翻訳という作業は、とにかく非常にこみいった、複合的なプロセスである。

(中略)

要するに、出たこと勝負的な要素が非常に多い。

(中略)

何とか翻訳のノウハウを、もう少し効果的に組織化する方法はないものか、しっかりしたシステムを持ちながら、しかも実地の作業に的確に役立つ整理の仕方はないものか。

実はこの本のアイディアは、この組織化に、伝統的な英文法の枠組みを利用してみようということなのである。

 

英語を学習している人は、ある英文をどのように日本語に”translate"するか悩んだ経験はあるだろう。勉強を続けていくと、英語は英語のまま理解した方が楽であることに気づくこと思う。

著者のような一流の翻訳家でも、英語を日本語に”translate"する難しさを感じていることが、この文章から推察できる。

具体的な翻訳技術の内容に関しては、実際に本で確認していただきたい。

 

私がこの本を読んで、一番勉強になった部分は翻訳技術の内容ではなく、著者のあとがきの内容である。

P.261 終章 何よりも大切なこと、3つ

これから、さらに翻訳の勉強をつづけられるにあたって、個々のテクニカルな問題以上に、その大前提として、ぜひとも心に留めておいていただきたいことばかりである。

(中略)

自戒の意味もこめて、その3つの大切なことを最後に書いておきたい。

 

”英語を知ること”

英語というのは、実にむつかしいのである。どこまで行っても、これでもう十分ということは絶対にないのである。

(中略)

単語の辞書的な意味ならまだしも、ニュアンス、連想、語感となると、われわれ外国語として学ぶ者には、いつまでたっても、これでよしという自信など、むしろ持てないのが当然というものかもしれないし、

(中略)

いやしくも翻訳をしようと思えば、ただ上っ面だけ読めたのでは絶対に不十分で、まさしく行間を読み、紙背を徹して読み抜くことがが不可欠なのだ。

英語はわかっているなどとタカをくくらずに、生涯、孜々として勉強を続けること。これをまず第一に言っておきたい。

 

このあとがきは、実に目を覚まされる内容だった。実際語学(英語)を勉強すればするほど、その奥深さ、幅広さは途方も無いものであることがわかる。TOEIC900点を越えたところで、それは表面的なものであることは取得した人なら理解できるだろう。

自分の中の”英語”に対して、どこまで追求できるのかという覚悟を問われる文章だと思う。

 

P.263 日本語を習うこと より引用

英語が十分わかっていること、これは当然の大前提で、これがなければ、拙訳以前の、欠陥翻訳しかできない。しかしその上で、翻訳の良し悪しを決める何よりのポイントはといえば、やはり、訳者にどれだけゆたかな日本語の力があるかだ。

(中略)

日常、時々刻々、耳にし、目にする日本語によくよく注意をとぎすませて、自分の日本語をできる限りゆたかにするよう、努力を続けなければならないし、いわんや文章を書いて人に読んでもらうとなれば、本当に納得のゆくまで練りあげるよう、不断の勉強が必要だと思う。

 

日本語の語彙力が乏しければ、良い会話や表現ができないことはお分かり頂けるだろう。

翻訳に関しても同様であるようだ。いくら英語を勉強しても”英語ネイティブ”にはなれない。

では、英語と言う言語を翻訳(通訳)する際に、どう向き合えば良いのか。

最後は、”日本語力”になってくるのはないか?と考えている。

 

P. 264 翻訳という仕事を愛すること より引用

翻訳というのは、けっして楽な仕事ではない。

今も言うように、英語についても並大抵ではない知識を必要とするし、日本語についてもまた、人並み以上の表現力がなければならない。

(中略)

それに、世間的な評価という点でも(そんなこと、どうでもいいと言えばそれまでだが)訳者はかならずしも正当な評価を与えられてはいない。ある意味では、創作をする人より大きな、多面的な能力や努力を必要とするというのに、翻訳者が原作者より褒められることなど、まずない。

(中略)

いずれにしても、世間的に、翻訳者はそれほど高い評価を与えられてはいないし、自然、経済的な報酬の面でも、それほど恵まれていないのが一般と言っていいだろう。それでもなお、大きな力をはらって翻訳の仕事をつづけてゆくためには、結局、翻訳というもの自体にたいする熱い愛がなければならない。

(中略)

翻訳でもやってみようとか、どうせ翻訳しかできないからといった安易な気持ちでは、それこそ、どうせつまらない翻訳しかできっこない。

 

購入の経緯に書いたが、”翻訳にチャレンジしようかな”という軽い気持ちでこの本を購入したが、著者の”翻訳に対する思い”を読んで、自分の英語に対する向き合い方を考える機会になった。

私にとっては、一つのことを突き詰める難しさ、奥深さを教えていただいた良書である。

 

嘲笑を恐れずに言うならば、翻訳はアート(芸術)と似ていると感じる。(私は趣味で楽器を演奏するし、音楽が好きだ。)

どんな仕事も突き詰めれば、アート(芸術)に昇華されるんだろうか?

人生でそういう仕事に出会えれば楽しいだろうなーという気分になった。

 

”翻訳”に興味がある人は、読んでみてはいかだろうか。

 

長文・駄文になってしまったが、最後まで読んでいただきありがとうございました!

(2549文字も書いてしまった。)